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【 今一度考える、危機管理 】


【 はじめに 】

 阪神淡路大震災から10年を迎えた阪神地域で、日本の鉄道の「安全神話」を揺がしかねない脱線事故という大惨事がJR福知山線で起きた。

 日本は高度の科学技術大国といわれている。諸外国から日本の鉄道技術は、利便、正確、安全と絶大な評価を受け、先進国の模範とされていた。国民にとっても、鉄道は通勤、通学を行う上でなくてはならない手段であり、安全で便利な交通機関であった。

 この脱線事故の問題点は、安全性より経済性・効率化を重視していた点と事故後の対応の不手際な点にあった。特に記者会見での内容が二転三転したり、現場からの情報が正確に伝わらなかったことにより、本当は当事者でありながら他人事かのように状況を把握していなかったことである。まさに危機意識の欠如であり、この事故は危機管理のあり方を今一度考えさせられることになった。


医療の安全性

 医療の安全性は、医療従事者個人の責任において行われてきた。この理由としては、医療がそれぞれ異なる症状を有する患者に対して、医療従事者の専門知識・技術の下、個別に提供されることにあった。しかし、近年の医療の高度化・複雑化等を背景に、医療従事者個人に依存したシステムでは、医療の安全性の確保は難しくなってきており、安全対策のあり方を見直すことが必要となってきている。これは、医療現場では希薄な概念であった「人は過ちをする動物である」ことを前提に、過ちが起きても安全なシステムを構築するという考え方である。


なぜ、危機管理

 国民の生命・健康が守られるべき医療機関で医療事故が相次ぎ社会問題化する中、「医療の安全と信頼」を高めるための取組として危機管理が挙げられる。

 危機管理とは、これから起こるかもしれない危険に対し、事前に対応していこうという事故予防対策としての危機管理(リスクマネージメント)とさらに万が一の状況が発生した場合を想定して準備するのが、緊急時や災害時対応の危機管理(クライシスコントロール)である。

 最近では医療事故防止のリスクマネージメントが注目されている。重要なことは「事故の犯人探し」ではなく、「事故原因を究明し、事故防止のシステムを構築し、事故を減少させること」である。

 我々診療放射線技師の業務は、生産工場のような定型的な業務ではなく、異なる症状を有する患者に対して臨機応変な対応が要求される。また放射線を利用する医療行為で、医療被ばくのリスクの低減も求められる。医療行為は、患者側からは自分一人に対する診断・治療行為である。しかし、医療従事者側からは、日常多くの患者を相手にした仕事を繰り返し、慣れることで気の緩みが起こり、医療行為を「作業」として捕らえ、「効率」を優先させる危険がある。医療行為には「安全責任」が求められ、医療行為ひとつひとつの危険性を認識する必要がある。日常業務も行う上で確認行動は事故防止の基本であり、業務の品質を保証するための積極的な行動でヒューマンエラー対策として有効である。そして職種や部署を越えチームで確認するシステムの構築や医療機関全体でリスクコミュニケーションする「安全文化」の醸成が必要である。

 また院内には、緊急時や災害時の対応マニュアルが整備されている。しかし緊急事態への備えを整備してもこれらを行うのは人であり、各手順の意義と考案された意味を熟知することが重要である。丸暗記では不測の事態に適切に対応できず、手順を守ることができなくなってしまう。個々のマニュアルや定期的な訓練状況の内容や質の検討も大事であるが、安全に対する強い意識、心構えが必要である。


おわりに

 医療従事者は、「患者の安全」を最優先し、安全に医療を提供する責務があることを認識して医療従事者としての基本的な倫理観や知識・技能を身に付け、常に学び続けることが必要である。医療は医療機関のシステムの中で、チーム医療として行われることから、チームの一員として自己の役割を認識し、他の医療従事者と良好な人間関係の下で医療を行うとともに、医療機関の安全対策へ積極的かつ主体的に参加する必要がある。

 「医療の安全と信頼」という命題を達成するには、医療従事者の危機意識への並々ならぬ覚悟がなければならないと認識すべきである。

 以上、文献や私見を交えてまとめてみましたが、皆様はどうお考えでしょうか。多分、医療事故をなくすことは不可能であり、我々はいつでも医療事故を起こす危険にさらされています。医療事故が起きれば、最も痛い目を見るのは患者であり、その事故を起こした本人はどんなに後悔しても及ばないでしょう。


引用文献

  • 厚生労働省医療安全対策検討会議:医療安全推進総合対策〜医療事故を未然に防止するために〜.2002
  • 熊谷幸三,天内 廣,太田原美郎,ほか:放射線業務における医療事故防止に関する.学術調査,日放技学誌60:2004.




学術部 樫山 和幸