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【 医療被ばく低減施設認定事業について 】


【 はじめに 】

 先日、和歌山県勤労福祉会館プラザホープにおいて「第5回安心できる放射線診療のために--市民と共有できる医療被ばく情報--」が行われました。
 ここでは午前の部に、レントゲン手帳(仮称) のトライアル報告を医療被ばく対策委員で東所沢病院の地主明弘氏が、医療被ばく低減施設認定事業のトライアル報告を同じく医療被ばく対策委員で聖マリアンナ医科大学病院の佐藤寛之氏が講演されました。 
 午後の部は市民公開講座として医療被ばく対策委員長の諸澄邦彦氏が「日本放射線技師会の進める医療被ばく低減の取り組みについて」を最初に講演し、引き続き高木学校の崎山比早子氏が「市民版医療被ばく記録手帳」を作ってみて--患者が知りたがっていること--」を講演されました。高木学校というとなじみの薄い方もおられるかもしれませんが、1997年12月プルトニウム利用の危険性を世界に広く知らせた科学的・社会的貢献によりライト・ライブリフッド賞を受賞した高木仁三郎氏により創設された組織で、市民の立場から研究し、勉強会の開催、会報の発刊などを通じて科学者を育成することを主旨とした活動をされています。その後に財団法人放射線計測協会相談役の沼宮内弼雄氏が「放射線防護の立場からみた医療被ばくの低減について」を講演されました。
 大変盛りだくさんな内容であった中から今回のなんでもコラムでは、医療被ばく低減施設認定事業を取り上げてみます。



【 医療被ばく低減施設認定事業とは 】

 日本放射線技師会から端を発した事業であり、(財)日本医療機能評価機構による病院評価(表1) において、放射線部門の評価に問題があること、放射線部門の評価が不適切であることは、生体に対して危険性を持つ放射線利用に関して国民にとって不利益をもたらす可能性があることから発足しました。国民に「医療被ばくの低減」という病院の選択肢を与えること、医療施設に医療被ばく低減のきっかけを与えること、今日病院選択の指標となっている病院機能評価の放射線部門を補完することを目的としています。
 
発案は日本放射線技師会で、草案は日本放射線公衆安全学会、システムの修正、サーベイヤーの選出は日本放射線技師会医療被ばく対策委員会が行っています。サーベイヤー委員会は、システムを試行し、修正し、医療被ばく低減施設の認定作業を行っています。

 表1) 財団法人日本医療機能評価機構の評価項目

4.6.1 画像診断部門の体制が確立している
 4.6.1.1 画像診断部門に必要な医師・職員が確保されている
  1
:
管理・責任体制が明確に定められている
2
:
病院の規模・機能に見合った放射線科医が確保されている
3
:
画像診断部門に必要な放射線技師・看護師・事務員が配置されている
4
:
機能に見合った緊急検査に対応できる職員が確保されている
 4.6.1.2 画像診断部門に必要な施設・設備・機器が整備され、安全に配慮されている
  1
:
機能に見合った単純撮影・X線TV・CT・MRI・血管撮影装置・超音波診断装置・その他が整備されている
2
:
保守点検マニュアルが作成されている
3
:
装置の保守契約が結ばれ、記録が整理されている
4
:
放射線防護に関する施設・設備・備品が整理されている
5
:
薬剤が適切に保管・管理されている
6
:
放射性同位元素が適切に管理されている



【 認定の手順 】

 現在、トライアルは終了していますが、認定の手順は(表2)のようになっています。

 表2) 実施手順

申し込み
自己調査票提出
−−− 
|
|
|
書面審査
再審査
-
合格
訪問審査
-
認定保留
業務改善
合格
|
登録(認定)
−−− 



【 評価項目 】

 評価項目は大項目、中項目、小項目に分類されています。
内容は会誌(2005/vol.52/No.633) を参照ください。中でも、必須評価項目を以下に記します。

・2.1.3 検査・治療ごとに医療被ばくガイドラインとの比較検討が行われている

・2.2.1 患者の被ばく線量に関するデータを評価し把握している

・2.3.1 放射線管理士が在籍し、主導的な役割を担っている

・2.3.1.1 放射線管理士が在籍している

・2.6.6 放射線機器管理士が在籍し適切な管理が行われている

・2.6.6.1 放射線機器管理士が在籍している


【 評価基準 】

 評価基準はA、B、Cの3段階です。

・A:適切である・適切な形で存在する・積極的に行われている
  など現在の医療被ばく低減の最高水準レベルに達している

・B:医療被ばく低減に必要な水準に達している

・C:適切でない・存在しない・行われていないなど
  医療被ばく低減に必要な水準に達していない


【 トライアルの結果 】

 トライアルは平成17年7月から9月まで受付け、希望施設は16施設で、近畿地区は3施設であった。
書面審査で合格した施設は7施設(47%) で、その施設に訪問した結果は認定施設が4施設(25%)、保留施設が3施設となった。

認定保留の要因は、
 1. 被ばく線量を把握していない。
 2. IVR 施行患者の皮膚線量が評価されていない。
 3. 適切な機器管理が行われていない。
 4.「医療被ばく」に関する教育訓練が行われていない。
 5. 核医学において、実投与量によるガイドラインとの比較が行われていない。
などがあった。

認定施設:労働者健康福祉機構横浜労災病院
     特定医療法人泉和会千代田病院
     国立病院機構九州循環器病センター
     東京慈恵会医科大学附属病院


【 まとめ 】

 
今回、医療被ばく低減施設の認定について報告しました。 この事業は多くの方々が関心を示されていることと思いますが、施設認定までは多くの作業時間が必要となっています。この事業の内容を早期から知り、申請に先だって必要な項目を業務に組み入れて準備することが必要であるとも言われています。
 将来、医療評価機構が放射線部門を正当に評価するためにも、放射線の専門家である私たち診療放射線技師が適正な基準を作り、国民の皆様に対して医療被ばくを低減する必要があります。このような活動により診療放射線技師が信頼される職業として社会に認知される要因となることは明らかです。レントゲン手帳など他の事業展開も医療被ばくの低減という理念に準じることは皆様もご存じのことと思います。これらをふまえ、私たちが日常行っている患者様に与える医療被ばくの低減に対し、積極的に取り組む時期に至ったことを強く感じます。

 


学術部 坂下 惠治