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【 中皮腫診断の現状 】


【 はじめに 】

 近年、アスベスト曝露に伴う「中皮腫」が社会的に大きな問題となっています。アスベストは天然の鉱物繊維で、「石綿(せきめん、いしわた)」とも呼ばれています。アスベストは熱、摩擦、酸やアルカリにも強い特性を持ち、丈夫で変化しにくく、簡単に加工しやすいため建築材料、産業機械、化学設備等に幅広く使用されてきました。アスベストの1本の繊維は直径数ミクロンからそれ以下、長さは数ミクロンから数十ミクロンと非常に小さいため、容易に空気中を浮遊し、人が吸いこみやすいという特質を持っています。この目に見えないアスベストを吸いこむことで、20年〜50年後に、石綿肺、肺癌、中皮腫などの病気になる可能性があります。



アスベスト関連疾患

 現在、アスベスト曝露に関連あるとされている疾病は、石綿肺、肺癌、中皮腫の3疾患に加え、良性胸膜疾患として、胸膜炎、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺(または無気肺性偽腫瘍)および胸膜プラークがあります。

(1)良性胸膜疾患
 アスベストによる胸膜炎は比較的近年になってからその存在が認められました。他のアスベスト関連疾患とは異なりアスベスト曝露開始より数年以内にも発症します。全く自覚症状がないまま経過し、後に胸膜が癒着し、びまん性胸膜肥厚として健康診断時などの胸部単純X線検査で見つかることが多い疾患です。中には、胸膜肥厚部分に隣接した末梢肺が部分的に虚脱を起こし、胸部X線写真上、円形の腫瘤様陰影を呈することがあり、これを円形無気肺または円形無気性偽腫瘍と呼んでいます。これらの3つの胸膜疾患は職業上アスベスト曝露を受けた場合に生じる疾患です。
 胸膜プラークは、通常アスベスト曝露より20年以上経過したのち、胸部単純X線検査で初めて見つかることが多い疾患です。それ自体は肺の機能障害をもたらすことはありませんが、職業曝露よりも低濃度の曝露によって生じることが知られ、過去におけるアスベスト吸入の指標となります。

(2)石綿肺
 アスベストの健康影響として最も早くから注目されており、職業上アスベスト粉塵を通例10年以上吸入した労働者に起こるじん肺の一種です。吸入されたアスベストが細気管支や肺胞に刺激を与え、炎症を起し、次第に終未肺気管支周辺や肺胞の線維化を来たし、肺機能障害を起こします。これはアスベストの曝露が中止した後にも進行することが知られています。最終的には肺線維症の進展の結果、呼吸不全で死亡する場合があります。
 石綿肺の胸部X線写真では、中下肺野、特に肋横角に近い部分に微細な不整形陰影としてはじまります。進行すると網状影、小輪状影が現れ肺野の縮みがみられます。


(3)肺がん
 1985年にLynch とSnith により、石綿肺に合併する肺がんの症例が報告され、その後多くの石綿肺合併肺がんが報告されましたが、1955年Dollがイギリスの石綿紡績工場労働者を対象にした疫学調査で、この工場に20年以上働く労働者の肺がん死亡率が、一般住民に比べて13.7倍も高いことを報告し、アスベストと肺がんとの因果関係を疫学的に明らかにしました。アスベスト曝露から肺がん発症には通例15〜40年の潜伏期間があります。曝露量が多い集団ほど肺がんの発生が多いという量一反応関係があることが確認されています。また、喫煙者の肺がんリスクを 1としたとき、アスベスト曝露のみでのリスクは5倍、喫煙のみでは10倍、アスベストと喫煙の両方あると50倍のリスクになるといわれています。

(4)中皮腫
 中皮腫は、胸膜、心膜、腹膜、精巣鞘膜より発生する悪性腫瘍です。中皮腫の大多数は石綿由来ですが、石綿に因らないことを医学的所見から明らかにすることは困難です。潜伏期間は非常に長く、曝露開始から20〜50年と言われています。一般的には、曝露濃度が高いと潜伏期間は短くなりますが、肺癌より低濃度曝露で発症します。中皮腫の発生は、アスベストの種類によって差があることが知られており、クロシドライトが最も危険性が高く、アモサイトがこれに次ぎ、クリソタイルは前二者より低いとされています。



中皮腫診断の現状

 中皮腫の早期発見は難しく、何らかの症状(息切れ、胸郭より下の疼痛、咳など)がでてから受診し、初めて見つかることが多く、アスベスト健診でも見つかることは希です。中皮腫の診断は、まず呼吸機能検査、胸部単純X線検査、CT検査および血液検査が行われ、異常が見つかれば、胸腔鏡下生検、細胞診、胸水検査、BALなどが行われます。しかし、確定診断には病理組織学的検査が必須です。また、問診は中皮腫診断おいて有用な手がかりとなり、経過観察および定期検査期間を決定する上でも重要です。
 石綿曝露のある中皮腫では、ほぼ全例に胸膜プラークができると考えられていますが、画像では必ずしも確認できないことがあります。しかし、画像診断は早期診断および経過観察において重要であり、画像所見は労災認定においても重要な役割を果たします。特にMDCTは、一度の息止めで通常の横断像に加え、MPRやHRCTを再構成することができ有用と言えます。現在、より精度良く早期診断のためにPETあるいは血清診断の新しいプローブやマーカーの研究がされています。
 中皮腫の治療法は、外科的治療、化学療法および放射線療法の3種類が標準的治療法ですが、現状ではまだ有効な治療法は確立されているとは言えません。一般に中皮腫の2年生存率は約30%であり、非常に予後が悪い疾患で、早期発見・早期診断が重要です。



【 まとめ 】

 
今回は、アスベスト曝露に伴う「中皮腫」について取り上げました。すでにあちこちで「中皮腫診断」についての講演をお聞きだと思いますが、実際に「中皮腫」にお目にかかることは少ないと思います。もし、アスベスト曝露歴のある方が来られたら、胸部X線写真やCTで胸膜プラークあるいはびまん性胸膜肥厚が存在しないか注意してみてください。CTで見つけることができればHRCTやMPRを追加してはいかがでしょうか。

 


学術部 藤田 秀樹、樫山 和幸