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【 胸部 CT 検診と胸部 CT スクリーナ制度の意義 】

 平成18年2月26日 (日) 兵庫医科大学 「平成記念会館」 において 『近畿地域学術研修会   放射線技師に求められる読影知識と認定制度』が行われました。 ここで特別講演として国立栃木病院の花井耕造先生は 「胸部 CT スクリーナ制度が目指す読影とは」 を講演されました。 その内容について資料をいただきましたので要約し、 なんでもコラムとして掲載させていただきます。

○低線量 CT 肺がん検診における能率の向上と精度管理を目的とした胸部 CT スクリーナ制度の提案

●厚生労働省科学研究費補助金 がん予防等健康科学総合研究事業
新しい検診モデルの構築と検診能率の向上に関する研究班

国立病院機構栃木病院 花井 耕造

【はじめに】
 
  低線量 CT 肺がん検診は、 早期肺がんの発見手段として最も有効な手法である。 しかし現行の胸部X線写真による肺がん検診の受診者数は年間700万人以上であり、 現在の肺がん検診を CT 検診で置き換えるには読影医が足りない。 また肺がん CT 検診は既に6万人以上が行われ、 その読影は全て医師により行われている。 しかし、 これ以上の受診者数の増加に対しては読影医の確保とその養成、 精度の維持には限界がある。 この問題点に対して本研究班では肺がん CT 検診のための胸部 CT スクリーナ制度を提案する。 胸部 CT スクリーナ (以下 CT スクリーナ) の目的は医療保健職 (放射線技師) のスキルを1次スクリーニングに活用することにある。 これにより読影能率の向上と読影医の負担軽減を行い、 肺がん検診全体を精度良くかつ効率的に行う。 CT スクリーナ制度の導入により多くの受診者がいつ、 どこでも精度の高い肺がん CT 検診を受診できる体制を構築する。


【胸部 CT 検診 (検査) における検診能率の向上と精度管理を目的とした胸部 CT スクリーナ】

1. 胸部 CT スクリーナとは

 低線量 CT 肺がん検診は肺がん早期発見、 早期治療への有効な手段であることが証明されている。 この胸部 CT 検診の円滑な実施を装置側から合理的に支えるために胸部 CT スクリーナの養成 (認定) を提案する。 胸部 CT スクリーナの実現により胸部 CT 検診 (検査) の円滑な実施とその精度管理および被ばく低減を行うことで受診者全体の利益を図り、 また国民の肺がん死の減少を目指すことができると考える。 本制度は胸部 CT 検診だけでなく、 胸部 CT 検査全体に発展することで、 今後、 増大する一方である CT 検査の質と検査能率に貢献することが可能と考える。


2. 胸部 CT スクリーナの具体的な業務内容

 胸部 CT スクリーナの具体的な業務内容は以下の5つである

1) マルチスライス CT (MSCT) において

 ズーミング処理などを含む病変部の thin-section 画像作成のためのスキャンデータへの処理 (保存) の判断。

  膨大なスキャン情報を有効に生かすスキャンデータの運用  

 MSCT は1〜2mm 前後の thin-section でスキャンされた後、 5mm〜10mm 厚の画像スライスとして再表示されて読影される事例が多く、 Thin-Section 画像の長所が生かされていない。 病変部の性状を判断しスキャン終了と同時に、 病変部に対する thin-section 画像を作成し、 または必要な生データの保存などを適切に行うことができる能力を持つ技師を養成することで MSCT の性能を最大に生かした診断情報の高い CT 画像を読影医に提供する。

2) シングルスライス CT において

 強く病変を疑う陰影に対して通常スキャン終了後,その場で thin-section CT を実施する。 これにより要精査受診者の再来などの負担軽減を行うことで検診能率の向上を行うと共に精度の高い検診を行う。

  要精査受診者の再来などの負担軽減などによる検診能率の向上  

 シングルスライス CT を用いた検査 (検診) において、 病変部の存在が強く疑われる陰影に対して、 その場で thin-section CT を行えることは、 要精査による受診者の再来院を省き、 また読影精度と検査効率の向上を図ることができる (2回の来院、 検査が1回で済む)。 ここではスクリーニング CT において適切に病変部の存在を指摘し、 thin-section CT の判断能力を持つ技師を養成することで検診能率を向上させるシステムを構築する。 この場合に受診者に対して医療被ばくを過度に与えることのないように疾患に対する十分な知識とスキャン技術を持つことが技師に同時に要求される能力となる。

3) 2段階 (2重) チェックを前提とした胸部 CT 画像に対する異常陰影の指摘とその所見記載

 CT スクリーナの到達能力を以下の如く定め、 そして講習内容、 講習時間、 テキスト内容を定める。

a) 10mm 以上の大きさを持つ結節の確実な発見と指摘

b) 要医療を伴う感染症、 炎症性陰影などの発見と指導医への報告

c) 5−10mm の大きさの結節 (solid、 GGO, Mixed GGO) の発見と指摘

d) 正常なものを正常と判断する能力

 読影医とスクリーナによる2段階 check を前提とした画像上の異常所見記載を行い、 またそれに付随する画像処理、 Thin-slice CT 施行、 スキャン画像保存などの判断を行うことで判定精度を維持しながら多くの受診者を短時間で判定) が可能となる。 これにより読影作業の効率 (能率) を高め、 検診業務全体の効率化を図ることができる。

スクリーナの基本姿勢と有効性

 スクリーナは医師の監督下での業務であることは基本姿勢である。

 またスクリーナための専門的トレーニングが行われることを前提とする。

 医療費抑制政策が今後も続くとすればスクリーナを活用することで費用効果比が向上することが期待できる quality を保ちつつ医療費の cost-saving を行う、 そのために適切なトレーニングを受けた技師のスキルを十分に活用する。

  医療保健職:放射線技師の有能なスキルの活用による読影能率の向上と読影医の負担軽減および医療費抑制  

4) CT 装置の精度管理、 装置の信頼性と保全性、 安全性の確保

 精度管理委員会 (学会) の定めた装置の仕様基準の維持と管理、 および定められた画質基準の管理。

 特定のファントムなどによりスキャンされた画像の物理的画像特性を確認することで行う。

5) 受診者の被曝低減と管理

 検診領域では健常者を対象とする。 このために被ばく管理、 被ばく線量の低減は不可欠な要素となる。 この目的のために定期的なX線量の測定、 被ばく低減に関する処置を行うことで肺がん CT 検診全体の被ばく線量の低減を行う。

6) 受診者情報の保護、 管理を目的としたデータベース運用

 肺がん CT 検診実施施設間での受診者情報の管理およびデータの共有化を目的とし、 肺がん CT 検診の有効性証明を目的とした統一データフォーマットの使用を行うことで精度の高い肺がん CT 検診を行うことができるシステムを構築する。


3. 現在までの進捗状況

 Web ベースで提供可能なティーチングファイルを開発した。 また講習会支援用アプリケーションとして管電流シミュレーション&仮想結節プログラムおよび受診者情報管理のための総合データベースを開発した。

 医師に対するスクリーナの読影能力を明確にするために読影実験を開始した。

 講習会前後における読影実験による講習会の有効性評価を8月に行う。

 CT スクリーナの仕事量を明確にするために胸部 CT 検診の業務工程分析を行った。

 施設認定の評価基準原案を作成した。

4. 今 後

 がん死が増加する中で国民の肺がん CT 検診に対するニーズは急速に高まっている。 今後、 増加する肺がん CT 検診に対して、 その質を担保しなければならない。 重要なことは多くの受診者がいつ、 どこでも精度の高い肺がん CT 検診を受診できる体制を構築することにある。 本班は17年度で CT スクリーナ養成に必要な講習会開催に関する基礎準備を終えた。 18年度は全国レベルでの講演会、 セミナー開催を行う予定である。 これにより作成された講習会企画、 テキスト原案、 ティーチングファイル、 支援ソフト開発の試験運用を行い本格運用に向けて準備を進める。 同時に CT スクリーナの読影実験を通じてその有効性を明確にする。 また肺がん CT 検診と胸部 CT スクリーナに対する啓蒙活動を進めて行きたい。 CT スクリーナの業務は医師の監督下での行われることは基本姿勢であり、 そのための専門的トレーニングが行われることが前提である。 重要なことは quality を保ちつつ医療費の cost-saving をしつつ、 そして適切なトレーニングを受けた放射線技師のスキルを十分に活用することにある。

 以上、 頂いた記事を掲載させていただきました。

 今後、 胸部 CT スクリーナ制度の提案が普及するまでには多少の時間が必要と思われます。 また資格認定制度については、 『なんでもコラム 第8章』 において紹介をさせていただきましたように各種、 多岐にわたっています。 しかし理想で言うなれば、 私たちは資格認定制度が普及されてから動くのではなく、 常にスキルアップをする事であらゆる資格認定制度に対応することの出来る放射線技師でありたいものです。



学術部 吉田 晃久、 中山 書利

参考資料

http://www.thoracic-ct-screening.org/jpn/index.html