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【 「がん対策基本法」について 】

【 はじめに 】

 日本人のがんによる死亡は、1981年に脳卒中を上回って死因の第一位となりました。国民の2人に1人が、がんにかかり、3人に1人が、がんで亡くなっています。がんで亡くなる人は年間30万人を超えています。そして、がんの罹患率や死亡率は、年々上昇を続け、誰が・いつ、がんを発症してもおかしくない状況にあります。
 国は、過去20年間にわたり、がん対策を行ってきました。現在、がんの発症率や死亡率を減少させるため「第3次対がん10か年総合戦略」を実施していますが、罹患率や死亡率が上昇していることからも、がん対策が十分な成果をあげているとは言えません。


【 がん患者を取り巻く問題点 】

 がん患者を取り巻く状況の問題点としては、以下のことが言われています。

1. 地域や病院によって治療の内容やレベルに格差が生じている。そのため、多くのがん患者さんが標準的ながん治療を受けられずいるのではないか。

2. 放射線療法や化学療法に習熟したがん治療の専門医が圧倒的に不足している。

3. がん患者に対して内科・外科・放射線科・精神科などの医師と医療従事者がチームを組んで治療にあたる「チーム医療」が日本であまり普及していない。そのため患者さんが最適な治療が受けられる体制が整っていない。

4. 海外で承認されている抗がん剤が、日本では未承認のために使用できない。また、遺伝子治療や免疫治療などの先進的ながん治療も日本では受けることができない。

5. 患者さんが最新の治療方法や治療薬などの情報を入手することや、安心して相談できる窓口が不十分であること。

6. がん治療は、早期発見・早期治療が必要不可欠であるにもかかわらず、日本ではがん検診受診率が10〜20%と極めて低いこと。(欧米のがん検診受診率:80〜90%)

7. 終末期医療および緩和ケアが十分に行える体制が整っていないこと。

 このような現状を改善するために、がん対策について国や自治体の責務を明記し、施策の一層の拡充を目指す「がん対策基本法」が6月16日に国会の参院本会議で可決され、法案が成立しました。


【 がん対策基本法 】

 「がん対策基本法」は、基本理念にのっとり、がん対策に関して国、地方公共団体、医療保険者、国民及び医師等の責務を明確にしていることが特徴的である。

1. 基本理念
がん対策は、下記の事項を基本理念として行われなければならない。

 (1) がんの克服を目指し、がんに関する専門的、学際的又は総合的な研究を推進するとともに、 がんの予防、診断、治療等に係る技術の向上その他の研究等の成果を普及し、活用し、及び発展させること。

 (2) がん患者がその居住する地域にかかわらず等 しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療(がん医療) を受けることができるようにすること。

 (3) がん患者の置かれている状況に応じ、本人の 意向を十分尊重してがんの治療方法等が選択されるようがん医療を提供する体制の整備がなされること。

2. 国の責務
国は、基本理念にのっとり、がん対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

3. 地方公共団体の責務
地方公共団体は、基本理念にのっとり、がん対策に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

4. 医療保険者の責務
医療保険者は、国及び地方公共団体が講ずるがんの予防に関する啓発及び知識の普及、がん検診 に関する普及啓発等の施策に協力するよう努めなければならない。

5. 国民の責務
国民は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣が健康に及ぼす影響等がんに関する正しい知識を 持ち、がんの予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、必要に応じ、がん検診を受けるよう努めなければならない。

6. 医師等の責務
医師その他の医療関係者は、国及び地方公共団体が講ずるがん対策に協力し、がんの予防に寄与 するよう努めるとともに、がん患者の置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切ながん医療を行うよう努めなければならない。

7. 法制上の措置等
政府は、がん対策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。


【 診療放射線技師の役割 】

 「がん対策基本法」は、平成19年4月1日から施 行されるが、我々診療放射線技師にどのような役割が期待されているのでしょうか。
がん対策に対する基本的な施策として“がん検診の質の向上等”“がん医療の均てん化の促進等”が挙げられています。
 “がん検診の質の向上等”については、最新の診断機器の性能を有効にかつ効率的に利用することや 撮影する診療放射線技師の知識と技能の向上等により、早期発見率を向上させることが求められていま す。我々が日常業務で扱っている単純X線撮影・CT・MRI 等の各種モダリティーの装置は、まさに “がんを見つける”診断機器であり、診療放射線技師が深く関与しています。
 “がん医療の均てん化の促進等”については、地域に関わらず適切で専門的ながん医療を提供する医 療機関の整備と手術療法・放射線療法・化学療法等の専門的な知識及び技能を有する医師やその他の医 療従事者の育成について記されています。
我々が唯一行う治療行為である放射線治療分野は、 科学技術の進歩によって、より高精度な照射法や強度変調照射法(IMRT) など最先端の照射法が可能となっています。
 欧米では、がんの種類によっては放射線治療が第一選択肢となりますが、日本では、まだ外科的な治療が多く、欧米並みとは言えません。放射線治療は、 外科的な治療と比べ組織を保存的に残す非侵襲的な治療法です。今後、社会の高齢化が進む中で放射線 治療の需要はますます増えると予測され、放射線治療の高度な質の提供および安全を確保するために診療放射線技師の役割は大きいと思われます。


【 おわりに 】

 先にも述べましたが、この法律は、医療を受ける 側、担う側の両者が共に、がん対策に取り組むこと を責務としております。
 がん医療においてもチーム医療による対応の必要 性が増しています。チーム医療の一員である診療放 射線技師も更なる専門的知識、技能の習得が必要不 可欠であり、高度医療を標準的に国民に提供できる ようにしていかなくてはならないと考えます。


【 参考資料 】

 厚生労働省ホームページ(がん対策) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan.html


学術部 樫山和幸