【 はじめに 】
被ばく防護に関するセミナーや研究会などに参加
すると決まってある特定の組織・機関の単語の略語がでてきます 。ICRP は 、その中でも特によく用い
られるので有名ですが 、その他にNCRP 、BEIR 、NRPB 、FDA 、UNSCEAR 、IAEA という言葉も
よく聴きます 。これらはすべて放射線影響の安全評価や勧告 、規制などを行っている組織・機関の略称
です 。これらの組織・機関について簡単に紹介させていただきます 。
【 NCRP 】
NCRP (National Council on Radiation Protection
and Measurements) は 、米国放射線防護
測定審議会のことです 。NCRPは 、米国議会から
公認された非営利法人団体です 。放射線の防護と測
定に関して先導的な共通の科学的知見としての情報
とガイダンスと勧告を明確にし 、且つ広めることを
目標としており 、NCRP資料の開発と出版を行っ
ています 。
【 BEIR 】
BEIR (Biological Effects of Ionizing Radiation)
は 、電離放射線の生物学的影響に関する米国
科学アカデミー委員会のことです 。米国科学アカデ
ミー(NAS)/米国研究評議会(NRC)の下に置か
れている放射線影響研究評議会(BRER) 内の1つ
の委員会です 。
BEIR 報告は 、アメリカ国内にとどまらず 、これ
までにも国際的な放射線防護基準の基礎とされる
ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告やUNSCEAR(国連・原子放射線の影響に関する科学委員会)の
報告にも大きな影響を与えてきた重要な報告書とし
て知られています 。2005年6月末発表のBEIR-7
では 、低線量放射線被ばくによる発がんなどのリス
クについて 「放射線被ばくには 、これ以下なら安全 」
と言える量はないとの見解を示し注目されています 。
【 NRPB 】
NRPB ( National Radiological Protection
Board) は 、英国・国立放射線防護委員会のことで
す 。1970年に制定された放射線防護法に基づいて 、
同年10月1日に英保健省管轄下の独立機関として設
立されました 。活動としては 、IAEA 、ICRP 、
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の委員と
して 、あるいはWHO 、UNSCEAR 、EC (欧州委
員会) のための調査研究などで国際的役割を果たす
とともに 、基準に関する助言を政府機関に行ってい
ます 。NRPB の主要任務は 、一般公衆 、被ばくの
ある職業人および放射線治療を受ける患者の健康を
放射線による害から守るための勧告を提示すること
です 。
【 FDA 】
FDA (Food and Drug Administration of the
United States Department of Health and Human
Service) は 、米国食品医薬品局のことです 。日本
の厚生労働省にあたる米国厚生省に属しており 、米
国の“食品 、薬品および化粧品に関する法律”の施
行に携わる政府機関です 。法律の施行にあたり 、
FDA は食品 、薬品 、医療機器および化粧品の品質 、
衛生管理 、宣伝広告などについての規制を行ってい
ます 。医療機器に関わる規制としては 、IVR によ
る皮膚傷害事例が端を発して透視の最大照射線量を
通常レベルで10R/min 、高線量レベルで20R/min
とするガイドラインを設けました 。また 、2001年11
月2日付で放射線診療関係者に対し 「小児および体
の小さい成人へのCT における被ばくリスクの低減 」
という通達を出し 、CT スキャナのパラメータを適
切に調整するように求めています 。
【 ICRP 】
ICRP(International Commission on Radiological
Protection)は 、国際放射線防護委員会の
ことです 。この委員会は 、専門家の立場から放射線
防護に関する勧告を行う国際組織です 。ICRP は 、
主委員会と4つの専門委員会(放射線影響 、誘導限
度 、医療放射線防護 、委員会勧告の適用)からなり
ます 。1934年に初めて許容線量の値を発表しました
が 、1950年 、1956年に順次値を下げ 、その後も最大
許容線量(1962年) 、許容限度(1965年) 、線量当量
限度(1977年 、1990年)などの修正を含めた勧告を
行ってきています 。ICRP が出す勧告は 、国際的に
権威があり国際原子力機関(IAEA)の安全基準 、
世界各国の放射線障害防止に関する法令の基礎になっ
ています 。
【 UNSCEAR 】
UNSCEAR (United Nations Scientific Committee
on the Effects of Atomic Radiation) は 、
原子放射線の影響に関する国連科学委員会のことです 。この委員会は 、1950年初頭に頻繁に行われた核
実験による環境影響および人間への健康影響を世界
的に調査するために 、1955年12月に国連に設置され
た原子放射線の影響に関する科学委員会です 。当委
員会は 、その後大気圏内核実験の縮小に伴い調査は
放射線に係わる人類と環境への重要事項すべてを調
査し 、国連総会に報告を行い適宜詳細な報告書を刊
行しています 。内容は 、自然放射線 、人工放射線 、
医療被ばくおよび職業被ばくからの線量評価 、放射
線の身体的・遺伝的影響とリスク推定に関する最新
の情報を総括したものです 。この報告書は 、ICRP
(国際放射線防護委員会)の基礎資料となる一方 、
世界の関係者の重要な拠り所となっています 。
【 IAEA 】
IAEA(International Atomic Energy Agency)
とは 、国際原子力機関のことです 。本来世界平和・
健康および繁栄のため原子力の貢献の促進増大と 、
原子力が軍事転用されないための保障措置の実施と
いう2つの大きな目的に基づいて1957年7月に設立
されましたが 、現在では放射線防護・安全の視点か
ら国際的な線量限度等の基準を提示している機関で
す 。
人体に放射線を照射できるのは医師 、歯科医師 、
診療放射線技師のみです 。これらの医療従事者は 、
患者さんの被ばく線量を適切に制御する必要があり 、
1996年IAEA は 、成人に対する典型的なX線検査 、
インビボ核医学検査に対してのガイダンスレベル
を提案した放射線基本安全基準(Basic Safety
Standards, BSS)を出版しています 。ガイダンス
レベルは 、同一の検査における患者さんの被ばく線
量の分布を参考に75%値を採用したものです 。
【 ICRP 勧告とUNSCEAR 報告 、IAEA レポートの関係 】
ICRP 勧告の基本になる学術レポートは 、
UNSCEAR 報告です 。一方 、IAEAレポートはICRP勧告の内容を基にしてWHO 、ILOなどの国
際機関と協力して 、加盟各国に対して国際的な放射
線防護基準等を提示しています 。
【 RERF 】
RERF( Radiation Effects Research Foundation)
は 、日本の放射線影響研究所のことです 。
放射線影響研究所は 、広島・長崎の原子爆弾の被ば
く者における放射線の健康影響を調査する科学研究
機関です 。主には被ばく者とその子孫について被ば
く線量に基づいて放射線の影響を調査研究していま
す 。大規模な調査集団に関して正確に記録されたが
ん罹患率および死亡率データは 、世界中で放射線防
護基準を確立する基盤となるリスク情報を提供して
います 。また 、定期的な臨床健康診断により 、調査
協力者各位の健康状態を把握し 、被ばく者の方々の
福祉にも貢献しています 。研究所は 、日本および米
国の政府が支援する日米共同の機関です 。
【 おわりに 】
被ばく防護に関するセミナーや研究会などでよく
耳にする組織・機関の単語の略語について記載しま
したが 、文字の制約上あまりにも簡単な説明になっ
てしまいました 。もっと詳しく知りたい方は 、是非
インターネットで検索下さい 。色々な情報が手に入
る筈です 。
参考までに最後に日本のRERF (放射線影響研
究所) について記載しました 。RERFについては 、
あまり聞きなれない方もおられるかも知れませんが 、
広島・長崎の原子爆弾の被ばく者調査から世界の放
射線防護基準を確立する基盤となる貴重なリスク情
報を提供している日本の誇れる唯一の研究所である
ことをお分かりいただけたらと思います。