【はじめに】
昨今 、画像診断装置の進歩はめざましいが 、胸部の一般撮影において観察する媒体がフィルムかモニ タの違いはあるものの 、描出された画像は白黒の濃度差と境界線のみで表現されていることと 、2次元 の平面画像であることは今も昔も変わらない 。そこで今回は画像を構成する境界線に関係し 、2次元の 画像から3次元的な位置情報を予測することができるシルエットサイン(silhouette sign) について解説する 。
【シルエットサインとは】
silhouette sign とは水濃度のものと水濃度のも のが相接(隣り合わせにある) している場合 、それらの辺縁は不鮮明かまたは認められない 。このよう な現象をloss of the silhouette あるいはsilhouetteout といい 、この所見をsilhouette sign 陽性とい う 。具体的に胸部正面単純画像では水濃度の陰影である心臓 、大血管などの縦隔臓器および横隔膜と水 濃度の胸腔内病変が相接して存在すると 、両者の境界が不鮮明となりsilhouette sign 陽性となる
【シルエットサインの応用】
次にsilhouette sign の原理に基づいた応用編と して以下のsign があるので紹介する 。
1) cervicothoracic sign (頚胸部徴候)
胸部正面単純画像では 、気管より前方の肺は鎖 骨の高さまでしかない 、肺尖部の肺は気管後方にあり 、鎖骨より上方にある 。そのため 、胸部正面 単純画像で 、上縦隔前方の腫瘤は辺縁が鎖骨より下方部分で境界が鮮明で 、上方部分は頚部の軟部 組織内にあり境界は不鮮明でsilhouette sign 陽 性となり 、cervicothoracic sign 陽性である 。逆に上縦隔後方の腫瘤は全体が鮮明に描出される 。
2) thoracoabdominal sign (胸腹部徴候) (iceberg sign)
胸腹部を跨ぐ病変はほとんどが大動脈裂孔の部分に生じるので 、傍腫瘤状の陰影を形成する 。横 隔膜上の肺と接する部分のみ描出される 。横隔膜下方により大きな病変が隠れていること もあり 、それを氷山の一角にたとえてiceberg signと呼ぶことがある 。
3) hilum overlay sign (肺門重畳徴候)
hilum convergence sign (肺門部血管収束徴候) hilum overlay sign は肺門部の塊状陰影中に気管支や肺血管が透見できる所見をいう 。このとき病変は肺門部以外の前縦隔もしくは後縦隔に存在 すると考えられる 。一方hilum convergence signは肺門部塊状陰影に肺血管が収束している所見を いう 。つまり肺動脈分枝がこの塊状陰影から分岐していれば 、肺動脈の拡張と考えられ 、肺静脈分 枝がこの塊状陰影に収束していれば 、この陰影は左房の拡大と推定できる 。
【シルエットサインの注意点】
続いてsilhouette sign に関する注意点を示す 。
1) 適正な画像濃度であること(濃度不足の画像で は評価できない)
2) 心臓右縁や下行大動脈の辺縁は胸椎影から突出 している症例でなくてはならない
3) 水濃度のものと水濃度のものとのコントラスト に関するものであり 、カルシウム濃度と水濃度と かカルシウム濃度どうしの
コントラストに関して は 、このsign は適応されない
4) 漏斗胸では通常 、右心房の右縁は不鮮明である
5) 高齢者や肥満者では心横隔膜角部に脂肪が沈着 しやすく 、その心膜外脂肪塊によって心横隔膜角 部の心臓の
辺縁が不鮮明になる
6) 一般撮影の画像に用いられるsignであり 、CT 画像には用いられない
7) 単に“silhouette sign がある”という表現で はなく 、“○○のシルエットが消失している 、○ ○が不鮮明だ"などと表現
しなければならない
【おわりに】
今回シルエットサインについて解説した 。一般撮影の画像には他にもたくさんのsign と呼ばれるものがある 。 それらについては成書を参考にしていただき 、一般撮影の画像にも多くの情報がぎっしり詰まっていることを 、今一度見直してみてはどうでしょうか 。