【死亡時画像病理診断(Ai:エーアイ)について】

【はじめに】

 近頃、メディア等を通して耳にする言葉に死亡時画像病理診断(Ai:エーアイ)があります。「チーム・バチスタの栄光」原作:海堂尊(宝島社刊)という映画が公開される前後からメディアでよく取り上げられるようになりました。

 現在、日本においてもAiについて、多くの諸団体が討議しています。今回のなんでもコラムはAiについて簡単に触れてみようと思います。

【Aiとは】

 千葉大学のAiセンターでは、Ai(エーアイ)とはAutopsy(解剖)+Imaging(画像)の癒合を意味する以外に、従来の病理・法医解剖にAutopsy imagingという手法を加えて統合されたAutopsy integratedという概念も含んでいるとしています。日本医師会の死亡時画像病理診断活用に関する検討委員会の中間報告では、「死亡時に画像診断を行うことで、死亡時医学検索システムの精緻化、高度化をはかる試みである。なお、用語の定義については更なる議論が必要である。」としています。

【異状死の扱い】

 変死者または変死の疑のある死体(変死体)の場合に検察官が行う検視と、医師(監察医)が死体を検査し、死因を特定する作業である検案があります。検視・検案には解剖は含まれていません。

【解剖について】

 患者さんの死後に病理専門医により行われる病理解剖、死因の判明しない犯罪性のない異状死体に対し死因の究明を目的として監察医により行われる行政解剖(監察医制度のない地域では行政解剖でなく、承諾解剖を行う。)、また、刑事訴訟法に基づき刑事事件の処理のために行う解剖で、解剖結果が刑事事件の真相解明や犯人特定などに重大な影響を与えることから、最寄りの大学医学部の法医学者が、捜査を担当する検察官や警察署長などの嘱託を受けて執行する司法解剖があります。

【対象人数】

 日本法医学会の「日本型の死因究明制度の構築を目指して」と題した提言によると日本では現在、年間に108万人が死亡しており、死者の多くは病院で死亡しているが、外因死およびその疑いのある症例や、死亡前の状況が不明である場合、死者の身元が明らかでないなどの場合には、警察に届けられた後、警察官の検視および医師による検案を受け、年間108万人の死亡者のうち、約15万人が警察による検視の対象となっているそうです。また、司法・行政・承諾解剖が10,000例あるとしています。

【Aiの展望】

 Ai学会の趣旨には死後画像(Postmortem Imaging: PMI)と剖検情報を組み合わせ、死亡時診断のスタンダードを構築し、医学的および社会的な死亡時患者情報の充実を図るための、新しい検査概念であるとしています。

【問題点】

日本医学放射線学会から日本医師会にむけてのAiについての意見書があります。

 ・ 倫理・感染予防等の理由により専用装置を地域ごとに設置することが必須。

 ・ 医療機関内の既存の装置を兼用する場合には、倫理面での社会的コンセ     ンサスを得る必要がある。

 ・ 装置の設置・運用・保守点検にかかる費用の負担、撮像・読影に関わるスタッフの必要数および人件費について、十分な検討が必要である。

 ・ 装置の性能・撮像プロトコールの標準化と、撮像・読影に関わるスタッフに対する教育システムの整備について、十分な検討・整備が必要である。

 ・ Autopsy imagingの必要性のみが先行して議論され、問題点および課題について検討・整備することなく、個別の医療機関および担当スタッフが負担を強いられる事態は避けなければならない。

【おわりに】

 厚生労働省では平成19年4月より「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」が開催されているそうです。その動向も気になります。

 日本法医学会の「死因究明のあり方検討委員会」中間報告では都道府県単位に100万人に1名の選任医師を設置する。国民が200円/人・年の負担をもつ等の展望がありますが、Aiという言葉は現在では一言も記載されていません。つまり、それだけAi導入については、慎重に議論しなくてはいけないと見受けられます。安易に、病理解剖が出来ないがために、「CTで体内を覗いてみたい。」などという発想で行うべきものではなく、法医学の分野で事件に関連する裁判の証拠となる可能性があることを念頭に置き、十分な体制を構築した上で実施すべきでありましょう。

 今回は簡単に限られた団体の要点だけをまとめてみましたが、Aiについては多くの団体が協議・議論を繰り広げ、推進派と反対派に分かれているようです。興味がある方は一度検索してみてはいかがでしょうか。

Ai学会
http://plaza.umin.ac.jp/~ai-ai/        *1000字提言は慎重に読むべきです
千葉大学Aiセンター
http://radiology.sakura.ne.jp/Ai/index.htm
日本医師会
死亡時画像病理診断(Ai)活用に関する検討委員会中間報告
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20080326_3.pdf
日本医学放射線学会の意見(日本医師会向け)
http://www.radiology.jp/modules/news/article.php?storyid=627
日本法医学会
http://plaza.umin.ac.jp/legalmed/
「死因究明のあり方検討委員会」中間報告
http://plaza.umin.ac.jp/legalmed/siinkyuumei.htm

                                                                                   学術部 三浦洋平