【 ジェネリック医薬品の功罪

【後発医薬品】

 製薬会社が新規開発した医薬品(先発医薬品)の特許が切れた後、特許内容を利用して別の会社が作る薬。開発費が少ないため価格が安い。有効成分は先発品と同じ。欧米では商品名ではなく、有効成分名を指す一般名(ジェネリック・ネーム)で処方されることが多いため「ジェネリック医薬品」とも呼ばれる。日本では、後発品の薬価(健康保険で認められる価格)は、当初は一律、先発品の7割になる。薬価はその後、病院などが購入する価格(実勢価格)の推移に合わせて下げられる。実勢価格は製薬会社によって違うため、有効成分が同じ後発品でも、薬価は何種類もある。一つの先発品に30社以上が後発品を出している場合もある。

●厚生労働省のジェネリック医薬品促進策

2002年4月      診療報酬改定における使用促進点数設定
        ◆GEルールの廃止
       【GEルール】:銘柄間格差是正のため、同一成分・同一規格の医薬品で、実勢の算定価
             が最高価格のものに対して2.5分の1以下となる医薬品は、当最高価格の
             2.5分の1の価格が薬価とされていた。

2002年6月      国立関係病院へのジェネリック採用促進通知
        ◆新薬偏重を見直し、銘柄を限定することの要否を検討
        ◆新規採用品目であって後発医薬品のあるものについては、必ず後発医薬品を検討品目
         掲載し、その採否を検討
        ◆他の国立病院等で採用している後発医薬品について、自施設での採用の可否を検討
        ◆現在購入金額の多い品目について検討

2002年10月     高齢者に定率1割負担導入
2003年4月      サラリーマン3割負担にアップ
2003年4月      特定機能病院にDPC導入
2004年4月      国立病院の独立行政法人化によるコスト削減圧力
2006年4月      処方せん様式を「後発医薬品に変更可」欄を設けた新様式に変更
        DPC対象病院の拡大
2008年4月      処方せん様式を"再変更"し、「後発医薬品への変更不可」欄を設けた。
        DPC対象病院の倍増

 後発医薬品(ジェネリック)の使用を求める声は強い。魅力は先発医薬品の半額程度という安さだ。国は医療費削減のために勧め、病院や健康保険組合も「使って」と声をそろえる。一方で「効果や安全性が先発品に劣らないか」との疑問も根強くある。また、「同じ品目の薬が数十社から出て選べない」との戸惑いもある。

 健康保険組合等では、慢性化する赤字対策の一つとしてかなりの高額をかけて、組合員への「ジェネリック(後発)医薬品利用促進のお知らせ」通知用のコンピューターシステムを導入し始めている。運営費に対し、導入の効果で薬代負担がかなり減らせるためである。

 病院も積極的になってきている。大病院の多くは、1日当たりの入院費を定額で受け取る。薬代がかさめば病院の負担が増すため、安い薬は魅力だ。

 後発品導入の旗手ともいえる聖マリアンナ医大病院( 川崎市 )は、03年から始め、今は注射薬と内服薬計1700品目のうち230品目が後発品という。増原慶壮(けいそう)薬剤部長は「導入4年で合計10億円の薬剤費削減になった。(副作用などの)問題も起きていない。」と胸を張る。(毎日新聞 2008年8月26日)

 背景には、医療費抑制を目指す国の政策がある。国は「経済財政改革の基本方針2007」で、07年度は17%だった後発品の数量シェアを、12年度までに30%以上にする目標を掲げた。実現すれば約4300億円も医療費を削減できるという。

 厚労省は今年4月、患者が薬局に持参する処方せんの様式を変えた。以前は、処方された薬を薬局で後発品に変えられるのは、処方せんに医師の署名がある場合だけだった。今は逆で、署名がなければ、患者が薬剤師と相談して後発品を選べる。

「効き目や安全性は、先発医薬品と同等です」。後発医薬品について、厚生労働省はポスターでこう利用を訴えている。しかしながら「効き目が劣る」「副作用が多い」と指摘される薬もあり、医師や薬剤師の間で不信感を招いている。

 厚生労働省は製薬会社に対し、飲み薬の後発品を認可する際、飲んだ人の血中濃度の測定試験をするよう求めている。認可条件は「後発品の血中濃度が、95%以上の確率で、先発品の濃度の80-125%の範囲に収まる」ことだ。厚労省によると、経験的に決まった許容範囲で、日米欧で採用されている。

日経メディカル2008年9月に掲載された後発品使用状況のアンケート結果によると、「90〜100%」すべての薬について後発品変更不可とする医師と「0〜10%」のみ不可とする医師が二極化しているという結果があった。また今年の4月以降でも「後発品変更不可」とした薬剤があったかの質問に対し、約半数が「ある」と答えている。その薬の種類でもっとも多いものが「抗ガン剤」続いて「降圧剤」「抗不整脈薬・狭心症薬」「免疫抑制剤」等々である。また「後発品変更不可」とする理由は、「後発品の品質が不安だから」が7割強と圧倒的に多く「後発品の情報提供体制が不安だから」「効果や副作用の違いを経験したから」などがそれに続く理由である。また反対に「後発品を処方する理由は?」に対し、回答者の半数以上が「先発品より価格が安いから」「患者が後発品を希望するから」を挙げた。その他の理由としては「勤務している病院の方針」という意見も多くあるようである。

 厚生労働省は今年、「ジェネリック医薬品品質情報検討会」(座長、西島正弘・国立医薬品食品衛生研究所所長)の設置を同研究所に委託した。検討会は7月の初会合で、メルクメジンなど指摘の多い10品目を対象に、先発・後発品の品質を独自試験することを決めた。

同一薬であってもかなりの数の後発品が発売され、医師にとっても選択が難しかったり、また信頼性の低さがある。信頼性の低さについては、先発企業にジェネリック医薬品を扱ってもらったり、ジェネリック企業の統廃合により問題が解決に向かうことが期待されている。また情報不足については、後発品は先発品とは製品の収益構造が異なっていることにも原因がある。特許切れの成分を用い、治験も行わないからこそ、安い価格でも成り立つのである。市販後の情報提供を担当するMRの数も、先発品に比べれば少なく、これも価格に影響する。先発品に比較して情報が少ないのは後発品が安価であることの裏返しでもあるといわれる。

ジェネリック医薬品が医療費削減のためのエースとなるのか、はたまた医療の質を落とし混乱を巻き起こす問題児となるのか?やや薬とは縁遠い私たち診療放射線技師であるが、その動向を見逃すわけにはいかない。

(学術委員 福西)