メタボリックシンドロームの診断基準

【はじめに】

 さて、来年の1月17日に 大阪市 立中央青年センターにて開催される、平成20年度「大放技・大臨技合同フォーラム」のメインテーマは“40歳からの特定健診(メタボリックシンドローム)”です。それに先立ち、今回のなんでもコラムでは、メタボリックシンドロームの診断基準が決められるまでの歴史を振り返ってみたいと思います。

 現在、日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準は、《臍レベルにおいての腹囲男性85 cm、女性90 cm以上が必須。かつ 以下の3項目中、2項目以上。?血圧が上で130/下で85 mmHg以上。?中性脂肪150 mg/dL以上またはHDLコレステロール40 mg/dL未満。?空腹時血糖110 mg/dL以上。》と、日本内科学会等8学会から2005年4月に公表されています。

 これからもわかるように、腹囲が必須項目にされていますが、どうして腹囲がこんなにも大事なのでしょうか?また、腹囲の基準制定には、画像診断装置の進歩が大きく関わっていることをご存知でしょうか?

【肥満研究の歴史】

 日本での肥満研究は、戦後生活が豊かになり始めた40年ほど前から始まり、肥満は糖尿病や高脂血症、高血圧と密接に関係することが知られていきました。当時肥満研究においては、人体を脂肪組織と除脂肪組織として考える方法が主流でした(2 model法)。つまり、脂肪組織蓄積量が、肥満に対する評価の基準として用いられてきました。しかし、多くの研究が行われていく過程で、たとえば力士のように体重が非常に重く、脂肪組織蓄積量が多い人でも糖尿病や高脂血症、高血圧を示さないのに、体重が軽いにもかかわらず、それらの症状を示す人も多く見受けられました。そこで、脂肪組織蓄積量が病因の発症を決めているのではなく、脂肪組織の質的要因が重要ではないかと推察されるようになってきました。

 さらに、1980年前後から普及し始めたX線CT装置が提供する“人体の横断像”が、それらの研究に新たな進歩をもたらしました。X線CT装置から得られる横断像によって、皮下の脂肪組織と内臓脂肪をそれぞれ別々に確認・計測可能になったのです。その結果、現在の診療の基礎となる「内臓脂肪型肥満」という疾病概念が生まれ、肥満であるか否かは決して体重のみによるものではないという考え方が、ここで初めて確立されました。さらに内臓脂肪の研究が進むにつれ、肥満が糖尿病や高脂血症、高血圧のみならず、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患とも、密接に関係することが知られてきました。

【内臓脂肪とは】

 内臓脂肪は、循環系が門脈につながっているのが大きな生理学的特徴です。そのため、内臓脂肪が燃焼される際に発生する分解物(グリセロールや遊離脂肪酸等)が肝臓に流入してしまい悪影響を与えてしまいます。グリセロールは肝臓でグルコースに変換され高血糖を、遊離脂肪酸は肝臓内でグリセロールと結びつきトリグリセリドに合成され高脂血症を引き起こします。

 また近年、内臓脂肪から、生理活性物質であるアディポサイトカインが分泌されていることが解明されてきました。このアディポサイトカインが糖尿病や高血圧、動脈硬化の原因に関係しているとされ、盛んに研究が進められています。

【測定基準】

 2000年に日本肥満学会から発表された基準によると、臍レベルの横断像において、BMI [Body Mass Index:体重(kg)/身長(m)2]が25以上で内臓脂肪面積が100 cm2を超えていれば内臓脂肪型の肥満と判定されます。しかし、健診において内臓脂肪面積の計測に、横断像の測定(X線CT装置の使用)を行うことはあまり現実的ではありません。そこで内臓脂肪面積を推定する様々な方法が検討され、精度の良さと簡便さから腹囲の計測が選択されました。その結果、日本人が内臓脂肪面積100 cm2以上に相当する基準値が、メタボリック検診の基準に採用されている、“腹囲男性85 cm、女性90 cm以上”なのです。女性の基準値が高いのは、皮下脂肪が男性よりも厚いからです。またこの基準値は、あくまで内臓脂肪面積100 cm2以上に相当するということであり、この値を超える場合にX線CT装置による計測が推奨されています。(ある報告によりますと、男性で腹囲が85 cm以上の人の53.6%が内臓脂肪面積100 cm2以上だそうです。)

 ちなみに体格が、“洋ナシ型”では皮下脂肪が多く“リンゴ型”では内臓脂肪が多いといわれています。皆さんも、自分の体格を理解した上での腹囲を意識してみてはいかがでしょうか?

【最後に】

 この内臓脂肪型肥満に、高血圧・高脂血症・高血糖を併発することで、動脈硬化性疾患等、様々な疾患に対するリスクが飛躍的に高まる、これがメタボリックシンドロームです。つまり、内臓脂肪を減らすことが、メタボリックシンドロームの改善に最も重要なのです。ところで、この厄介な内臓脂肪は、皮下脂肪に比べて増減しやすいのが特徴だそうです。ちょっとした生活習慣の改善で減少し、生活習慣が乱れればすぐに増えてしまいます。

 今回のこのコラムをきっかけに自らの生活習慣を見直して、みなさん、すっきりとしたおなか周りで合同フォーラムに参加してみてはいかがでしょうか?

                                 (学術部 小西)