なんでもコラム トップページへ
 
 

【 緊急被ばく医療について 】


【 はじめに 】  

 1999年9月、茨城県東海村にある(株)JCO東海事業所で臨界事故が発生しました。この事故を契機に原子力災害に対する対策の強化を図ることを目的に災害対策基本法及び原子炉等規正法の特別法として1999年12月、原子力災害対策特別措置法が制定され、2000年6月から施行されています。

 また、わが国の緊急被ばく医療体制については、抜本的な見直しと充実強化が強く望まれるようになり2001年6月に原子力安全委員会は「緊急被ばく医療のあり方について」の報告において人命の視点を最重要視し、原子力施設の従事者と周辺住民等を分け隔てることなく被ばく患者を平等に治療しなければならないとしました。それにともない緊急被ばく医療に従事するすべての関係者が適切な研修・訓練を受けることで、被ばく患者の診療に不安を感ずることなく円滑かつ迅速に診療できる体制を構築することを提言しました。

 既に文部科学省の委託を受け(財)原子力安全研究協会(以下 原安協)が緊急被ばく医療研修会を全国展開しているところですが、(社)日本放射線技師会の放射線管理士認定講習会においても緊急被ばく医療についてのカルキュラムを組み込み原安協の衣笠氏による講義が行われており、緊急被ばく医療に従事する関係者として我々放射線技師、とりわけ放射線管理士による放射線測定等の広範囲にわたる協力に期待が寄せられています。


【 緊急被ばく医療とは 】
 
 緊急被ばく医療とは放射線事故や原子力災害により被ばくした方や汚染を伴う傷病者の方に対して行う医療をいいます。緊急被ばく医療では通常の救急医療対応に加え、どういう放射線による被ばくなのか、体内や体外に放射線を発する物質が残存している(汚染している)のか、被ばく線量はどのくらいなのかを明確にし、どういう症状がいつ頃出るのか等を明らかにすることが必要です。

 それにより放射線測定や放射線核種分析の専門家の協力を得て、測定機器と計算から提供されるデータと血液や染色体検査に基づいて診断し、的確な治療が行われます。被ばく者に汚染がある場合はその除染はもとより、放射線管理、防護の専門家の協力も必要です。このように様々な分野の専門家と医師・看護師・技師など医療関係者との協力で成り立つ放射線被ばく時の医療が“緊急被ばく医療”です。また、被ばくしたのかどうか分かりにくいため様々な不安に対して健康影響への説明を行ったり、心のケアを行うことも緊急被ばく医療では重要です。


【 緊急被ばく医療体制 】

 2001年に文部科学省の委託を受け原安協が緊急被ばく医療の研修事業を行い、医師をはじめ看護師やその他のコ・メディカルによる医療体制が整いつつあります。原子力施設において緊急事態が発生した場合、関係各方面を包括した緊急被ばく医療体制が組織されることになっています。

この緊急被ばく医療体制は以下のように三部からなる構成になっています。

・ 初期被ばく医療体制
 
外来(通院)診療等を念頭においた医療である。被ばく患者の応急処置及び周辺住民への初期対応を担う事業所内、避難所などの医療施設や外来診療を行う近隣の医療機関が機能する。

・ 二次被ばく医療体制
 入院診療を念頭においた医療である。汚染の残存が危惧され、相当程度の被ばくをしたと推定される患者が転送され、全身除染、汚染創傷の治療、汚染状況及び被ばく線量の測定、血液・尿などの検査・分析が行われる。

・ 三次被ばく医療体制
 専門的入院診療を要する医療である。国立大学附属病院等の学際的に高度専門治療を施す地域の中心となる医療機関が、放射線防護協力機関等と連携し医療を行う。地域の三次被ばく医療機関は、その地域ブロック内の医療機関間における被ばく患者の搬送、技術協力などの調整を行う。

 被ばく医療を行う医療機関は、地方自治体または国にあらかじめ指定されます。二次被ばく医療機関としては身近な施設として国立病院大阪医療センターがその役割を担うことになります。三次被ばく医療機関については、放射線医学総合研究所のほかに平成16年3月に広島大学が選定されました。


【 緊急被ばく医療において期待される放射線管理士 】

 現在、国が進めている緊急被ばく医療体制に求めるものには、線量評価などの正確な評価や除染などの処置技術、さらには汚染患者の処置にあたる医療者の汚染対策など多岐にわたる放射線学的な知識と技術が要求され、放射線学的専門性を有している職能集団としての放射線管理士が期待されています。

緊急被ばく医療での放射線管理士の役割は以下のようになっています。

・患者や救護所などでの被災者の汚染測定を確実に行う。
・汚染測定の結果を具体的に、その被災者の近傍に1時間いるとどれくらい被ばくするかを説明する。
・汚染測定に必要な機器の取り扱いに習熟している。

などです。
しかしながら専門家らは、これらの役割を確実に実行するためには定期的な知識や技術の習得、評価を行う必要があり、そのための恒常的な体制、組織を構築しなければないとしています。


学術部 宇都 辰郎
 角中 克好