ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)について

【はじめに】
 近年、放射線治療のめざましい進歩により、がん治療成績の向上をもたらしてきました。皆さんも一度は耳にしたことのある、強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療や陽子線・重粒子線治療の開発、普及が成績向上に貢献してきました。
 しかしすべてのがんに対して有効なわけではありません。特に浸潤性のがんにはこれら幾何学的に線量を集中させる手法では限界があります。
 そこで、腫瘍細胞に対して選択的に放射線を集中できるホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)は従来の放射線治療では困難な浸潤性のがん、多発性のがんなどに有効で、次世代のがん治療として注目されています。

BNCTによるがん治療のしくみ
 
腫瘍細胞にホウ素化合物を選択的に取り込ませる薬剤を静脈注射し、1〜12時間(薬剤により異なる)おいて、腫瘍部に中性子(熱あるいは熱外中性子)を30〜60分照射すると核反応によりヘリウム原子核(α線)とリチウム原子核が生成されます。これらは細胞殺傷能力が大きいだけでなく、ちょうど細胞の大きさと同じ距離(約10μm)だけ到達するので、周りの正常細胞に影響を及ぼしません。またBNCTで用いられている熱・熱外中性子線(1〜10KeV)は人体にほとんど影響がないといわれています。


BNCTの問題点と展望
 
まず、中性子線を得る方法です。これまでは原子炉がないと中性子線を作ることができず、大規模な施設、約300億円という莫大な建設費用がかかっていました。しかし2009年、京都大学にて加速器ベースの中性子線発生装置が稼働予定で、これは中性子のエネルギーを変化させることができ、原子炉で作られた中性子線より最適なエネルギーを得ることができます。また設置面積的にも、そして約15億円というコスト的にも将来的には病院敷地内設置可能な装置として期待されています。
 

おわりに
 
BNCTは日本が世界をリードしており、浸潤性がん、多発性がんに対する有効な治療方法ですが、現在京都大学付属原子炉研究所と日本原子力研究開発機構2箇所のみで臨床研究がおこなわれているだけです。今後中性子線源の小型、低コスト化、またより有効なDDSの開発が進み、臨床研究から臨床治療法として確立されることにより、われわれの身近な放射線治療となることが期待されています。

彩都友紘会病院 放射線治療部 榎原靖彦