『自走式カプセル内視鏡について』

【はじめに】

 胃カメラや大腸カメラなどチューブ式内視鏡は検査時の苦痛が大きく、その苦痛を軽減するため、飲み込んで排泄するタイプの超小型カメラ内蔵のカプセル内視鏡が現在実用化されています(第30章なんでもコラム)。

 しかし、従来のカプセル内視鏡には、

1.消化管の蠕動運動により移動するので、任意の位置や方向に制御することができず、観察したい所を見られないことがある。

2.カプセル内視鏡の小型電池の能力の制限から検査時間に制約がある。

という問題点があります。

 これらの問題を解決するため、龍谷大学と大阪医科大学の研究グループにより、遠隔操作で自在に動かして撮影することができる「自走式カプセル内視鏡」とその駆動装置が開発され、生体実験に成功したことが2009年7月2日に発表されました。

【自走式カプセル内視鏡の概要】

 今回開発された自走式カプセル内視鏡は、小型磁石を内蔵した全長13mmのシリコーン樹脂などで作られた『ヒレ』を既存のカプセル内視鏡に装着させたもので、直径14mm、長さ48mm(ヒレを除けば35mm)、重さ約3.5gです。

 交流磁場を発生させる装置で患者の体外に磁場を発生させ、その磁場によりヒレに内蔵された小型磁石が振動してヒレを動かし、魚が泳ぐようにカプセル内視鏡が自走します。胃内で自走式カプセル内視鏡を動かす場合は、予め水を飲んでこの中を泳がせることになります。

 また、制御装置のジョイスティックで交流波形を変化させ、カプセル内視鏡の動く速さや方向を自由にコントロールすることができます。カプセル内視鏡が撮影し体外に送信したリアルタイムの画像でモニタできるので、その画像を見ながらジョイスティックを動かして遠隔操作を行います。

 従来のカプセル内視鏡とは異なり電池ではなく、体外の装置から与えられる磁場により駆動するので、駆動時間の制限はありません。使用する磁場は弱く、人体への影響はないと考えられています。

【生体実験】

 2008年10月、ビーグル犬の胃の内壁に止血用クリップを4ヶ所取り付け、クリップを検出できるか確認する実験が行われました。

 自走式内視鏡を操作するオペレータにはクリップの取り付け位置などの情報を教えずに、カプセル内視鏡が撮影した画像をモニタしながら動かしたところ、全てのクリップを撮影することができ、世界初の生体実験に成功しました。1年以内に臨床実験を始め、数年後の実用化が目指されています。

【おわりに】

 今回開発された自走式カプセル内視鏡は人体に無害であり、なおかつ従来のカプセル内視鏡の問題点が解決された理想的なものであると言えると思います。

 さらに改良は必要なのだそうですが、カプセル内視鏡で一度に全消化管の検査が行えるようになる日もそう遠くはないと思います。

学術委員 内村貴子