『3T MRI装置における”MultiTransmit”について』

 3T MRIではSNRの高さにより、これまでの磁場強度の装置よりもアドバンテージがあり、様々な有用性があげられている。しかし、種々のデメリットもあり、各MRIメーカーは切磋琢磨しているのが現状である。そのうちのひとつである、RF不均一の改善対策として”MultiTransmit”が今年春から登場し、使用できるようになったので紹介する。

3Tでは、被写体内部まで均一にRFが浸透せず(誘電効果、定常波効果)、感度ムラのような画像となることがある(図1)。その原因は、体内でのRFの波長が被写体と同じくらいまで短くなってしまい、RFの干渉が生じ、この現象が起こりやすくなるためである。従来のquadrature送信システムのRF送信方法では位相差90°固定値でのRF送信を行っており、波長が短くなった2種類のRFが体内で干渉し、うまく位相差を保てなくなり、不均一な状態が生じてしまうからである。加えて、RFの強まった箇所はSARの増大を招くことにつながる。

対策として体表(誘電率が変化しやすい)に誘電パッドを置くことは有用である。

 しかし、これを通常の1つのRF送信源を2つに分けて、出力するRFの振幅や位相を独立して調整することで、被写体内の不均一なRF分布に対応したパルス送信が可能となる。送信RFの状態は被写体の部位や体型などによって異なるため、キャリブレーションによってRF分布を測定し、送信RFの振幅・位相の値を算出することで、均一なRF分布を作り上げる(図2)のである。つまり、被写体に応じた最適なRF環境を作ることができるのである。

 また、この手法は、RF不均一によって設定どおりのフリップアングルでRFが照射できていないことによるコントラスト低下を改善することにも役立っている。

 さらに、局所SAR増大のリスクも軽減されるため、安全性から撮像時間を延長せざるを得なかったことも改善され、撮像時間を固定とするなら高分解能撮像も可能となる。

 このように被写体ごとに最適化されるシステム導入により、今後の高磁場MRI装置の展望に注目するとともに、大いに期待できる

(協力:フィリップスエレクトロニクスジャパン)

                       学術委員 大阪赤十字病院 高津安男