えっ! カテーテルで大動脈弁置換!?

 

2009年11月7日の新聞に「心臓止めずに大動脈弁置換手術、阪大が国内初成功」との記事が掲載されました。その記事の内容はというと「心臓の弁が開きにくく血液を十分に送り出せない大動脈弁狭窄症患者の弁を、カテーテルを使って人工弁に置きかえる手術に国内で初めて成功した」という内容で、なんとその対象となった患者さんは91歳だそうです。「心臓止めずに」=「開胸術ではない」ということで、「カテーテルを使って」=「カテーテル治療(IVR)」で弁置換を行ったと言うことです。

1985年ごろまではカテーテルと言えば、血管造影撮影の代名詞であり、造影剤注入による連続撮影を示すことが一般的でした。しかしカテーテルを用いた手技は撮影のみに留まることなく、薬剤注入を初め、バルーンによる狭窄部の拡張術やステント挿入、動脈瘤に対するコイリング、腫瘍への栄養血管の塞栓術、閉塞脈管や膿瘍に対するドレナージ術などが開発されました。また閉塞部や狭窄部に対するカテーテル治療は「削る」・「溶かす」の原理をもとにレーザ、ロータブレータ、アテレクトミー(DCA)もしくは吸引などが開発され、現場のカテーテル検査室はまさに修理工場のような機材と音にあふれています。ただしDCAは現在、使用されていません。

現在、症状のある大動脈弁狭窄症(胸痛、失神、心不全)の治療は開胸での大動脈弁置換術:AVR(aortic valve replacement)と経皮的大動脈弁形成術:PTAV(percutaneous transluminal aortic valvuloplasty)があります。

国内では年間8千〜1万人の方々がこの大動脈弁置換手術を受けているそうです。弁疾患は薬では治せないうえに、症状が出てからの予後が悪いのですが、高齢者や他の疾患のある患者さんでは、開胸手術自体がハイリスクとなり手術を受けることができません。最近のデータでは心不全症状のある重症大動脈弁狭窄症の患者さんの30-40%が、何らかの理由で手術を受けていないそうです。高齢化社会が進むにつれて、高齢者の大動脈弁狭窄症の方で、特に心臓以外は問題ない患者さんでは、手術すべきか否か問題となっていました。

そこで、ここ数年前から試行されてきているのが、カテーテルを用いた大動脈弁置換術です。この手法は欧州などで約7千例がすでに行われていますが、国内では大阪大学で今年10月に初めて実施されました。この技術のベースとなるものは胸部・腹部大動脈瘤に対する大動脈ステントグラフトです。ちょうどステントグラフトの一部に人工弁が取り付けられているような構造となっています(写真参照)。従来からカテーテルによって行われてきたほぼ姑息的な治療ともいえる経皮的大動脈弁形成術と違って、この治療法は長期の治療法を目指しているものです。現在は、年齢や他の疾患などがあって大動脈弁置換術がハイリスクと考えられる患者さんにのみが対象のようですが、将来的には外科的大動脈弁置換術に対し経皮的大動脈弁形成術が主流となることが予想されます。ちょうど、虚血性心疾患に対するACバイパス術がカテーテルによるステント治療に大きく移行したことが記憶に新しいところです。 

経皮的大動脈弁形成術を支援するシステム開発によってシースの小径化が積極的に進められ、現在では18Frのカテーテルにて治療可能となっています。またすでに 8 種ほどの新たなデザインのシステムも開発されています。

MSCTが外来レベルの短時間検査で人体のあらゆる血管を詳細に写し出すことを可能にした近年では、カテーテルの目的は検査ではなく治療が主目的となりました。多種多様のカテーテル治療が開発、実用化され手術に置き換わり、もしくはそれ以上の治療手段として近年の医療を支えています。きっとこの流れは、間違いなく人類の夢である「切らずに治す」という未来の医療へと続いていると思います。

(学術部 福西康修)