【 はじめに 】
医療構造改革により,我々を取り巻く状況は決してゆっくりと構えることのできないものとなりました.情報処理技術,産業技術の急激な進化により医療技術は日々大きく進歩を続け,マルチスライスCT,PET−CTなどに代表されるように,画像診断の環境も大きく変化を遂げております.これらモダリティの進化は,膨大な情報の取得と検査時間短縮の両立,つまりは画像検査の効率化を可能とし,収益性の向上にも大きく貢献しております.
一方,モダリティから発生する膨大かつ精密な画像情報の読影の場面においては,PACSによるフィルムレス化を含んだ電子カルテの導入が進み,業務の効率化を図りながら誤診や見逃しを防ぐ努力がなされている状況です.今回は,このような日常の診療のなかで,私たち診療放射線技師が行う読影について考えてみたいと思います.
【 教育と時代要請との狭間 】
私たち診療放射線技師のほとんどは,学生時代に放射線撮影技術学の勉強にはかなりの時間を費やしたと思います.
しかし,画像に関する「所見学」「読影学」といったような勉強はなかったように記憶しています.それらの内容については実習施設にて教えて頂いたくらいのものではないでしょうか.最近の診療放射線技師の国家試験では読影能力を問う内容の問題が出題されております.
また,これからは,「なんでもコラム 第8章」の『資格認定制度』でも掲載されておりましたように,多種多様な専門技師や資格認定制度といった専門性の向上を計る制度が増えてくるように思われます.現在あるこれらの検定試験などにおいても所見・読影といった技能を問う内容の試験問題が出題されています.
このように我々診療放射線技師にも読影の能力が求められる時代となっているのです.
【 “診療放射線技師による読影”を取り巻く環境】
それでは,より具体的に我々の診療の場面において技師の読影がどのようになされているのか,資格制度に定められる内容もあわせて見ていきましょう.
まず,我々が普段行っている画像検査の中で,検査担当者の手技や技量により結果が大きく左右する消化管造影検査をはじめとした透視検査や超音波検査などでは,必然的に担当技師の読影能力が必要とされる領域です.
これらの検査を担当する技師は,検査中に疑った診断内容や読影の内容を否定あるいは立証するため,さまざまな画像情報からなる根拠を取得し,その読影が正しかったのか否かの判断を診断結果と照らし合わせながら,後ろ向き検討による技術および読影能力の習得に日々精進されていることと思います.一般撮影領域,マンモグラフィの領域においても,疑わしき異常影を発見すれば担当技師の判断で追加撮影を行ったり,より有益な検査となるよう努力を積み重ねていることと思います.専門医や放射線科医が常時いない施設や夜間の救急医療施設においては,診療放射線技師の読影能力が診療の効率化や精度向上に大きく貢献していることは疑う余地もありません.
このように日々の診療の中で我々診療放射線技師は毎日画像と向かい合い,読影を行う機会と接しており,その読影能力は医療へ多大な貢献をしていると考えてよいでしょう.
各種の資格制度に目を向けてみますと,胃がん検診専門技師においては更新時に5年間で直接撮影1000件以上,間接撮影5000件以上を必要としており,超音波検査士においては受験する臨床領域で150件症例以上の経験を必要とされています.これらは臨床経験の蓄積の上に資格を取得できるシステムであり,その読影レベルにも高い能力が要求されていると判断できます.マンモグラフィ撮影診療放射線技師については「なんでもコラム 第4章」の『乳がん検診について“せいちゅうい”って何?』に詳述していますように,試験項目の中に読影の項目が含まれております.また,日本放射線技師会では,臨床技術能力検定として画像読影技能検定実施の準備を進めている状況であります.
このように,私たち診療放射線技師の資質向上において読影能力の習得はとても重要な課題であり,新たに取り組むべき課題でもあります.日本放射線技師会雑誌では「シリーズ画像読影」の連載を行っておりますし,何より日常携わっている臨床画像を単に見送るのではなく,少しずつ紐解くことでその能力は培われていくものと思われます.
以上,簡単ではございますが,技師の読影について現況およびそれを取り巻く環境について述べました.本稿が皆様の読影を勉強するきっかけとなれば幸いです.
【 おわりに 】
大阪府放射線技師会学術部は,これからも生涯学習セミナーをはじめ,日常診療のお役に立つ知識や情報を提供する場として,身近で参加しやすいセミナーや勉強会を開催して参ります.会員の皆様の資質向上のお手伝いをさせていただきますので是非ともご参加,ご活用いただきますようお願い申し上げます.